top of page

Saga of New Isenland

(Japanese)

『ニューイーセンランド(New Isenland)。ロコトルア島の南に浮かぶ火山島だ。

島の中心には地獄の山ヘララ山が聳えている!ん、ソビエトじゃない!聳えているのだ!

その火山には伝説があるのだ。ほかにもあるけどね。

 

その昔、ロコトルアの島々に地球からの移住者たちがたくさん上陸しました。

愉快なおバカたちは、北の平野にロコトルアタウンをつくりました。

知的で冷徹な人々は、南の平野にサイトシティを建設しました。

素朴でワインを愛する人々は間の台地にロゼタウンをつくりました。

その他のぼんやりした人々は、その他の土地に住み着きIT産業に従事しました。

もっとも、大多数のまともな人間はこんな狭苦しい島国に住むはずもなく、

広大なセントラシア大陸に移住しましたが。

 

ロコトルア島は、どこに行っても美しい景色ばかり。色鮮やかな花が咲き乱れ、

なだらかな岡辺に川のせせらぎはまろび、神秘のクレーターにはルビーの湖が宿っています。

さて、地球の北限または南限の、荒涼とした風景の中に住んでいた移民たちは、これらののんびりした景色に我慢できませんでした。

すぐに荷物をまとめ、南へと船(量子ボート)を漕ぎ出しました。

ロコトルア島の上に輝く青い太陽は遠く離れ、代わりに低くて暗い雲のカーテンが下りてきました。

おだやかなささめきを続けていた海の波も、次第に声を荒げ、時折、黒いつめを立てました。

海は、いつの間にかひねくれた移民者たちを取り巻き、神々が叱責の言葉を投げかけるかのように、冷たい波しぶきを浴びせかけました。難渋な色を浮かべた移民者たちの顔の下には、しかし、この成り行きが思い通りに進んでいるという喜びが潜んでいました。それは信仰心から来るものなのか、ある種の倒錯なのかはわからないが、破滅耽美的な自然観はこの移民者たちの内面を相互に結びつけ、ひとつの「民族」を形成させる大きな要素であったことには違いないでしょう。

海の張り上げた波の音は船体をひどく打ちつけ、空を覆い隠す灰色の雲を焦がしました。あわや転覆、と思ったそのとき(案の定)、雲の谷間より一筋の白い光が差してきました。その光の下では、波は凍ったようでした。

船団はゆっくりと、その光の差すほうへと列を成して進みました。茫漠とした塵界の中から現れたのは、針葉樹の梢のような島。海岸は真っ黒に染まっていました。移住者たちは、自分たちにふさわしい土地を見つけて新天地に感涙を滴らせました。さて、人々は早速新しい土地での生活を始めましたが、すぐに重大なことに気づきました。

この島のまわりでは、魚が一匹も取れないのです。(それもそのはず、この第五惑星には魚はおろか、鳥や獣といった地球ではおなじみの生き物の類は存在しないのです)

しかも、島の中央に聳える、恐ろしげな火山は常に煙を噴き上げており、いつ、大噴火が起きてもおかしくない状態でした。

ふもとには、巨大な温泉の湖があり、旅の疲れを癒す憩いの場となるだろうと移住者たちは期待していました。

しかし、大噴火の不安と、あまりのお湯の熱さと、卵の腐ったようなにおい、そしてそのグロテスクな緑色の艶めきのために、人々はその温泉につかることはありませんでした。

火山は幾度も噴火を繰り返してきたのか、草木は生えず、また日照時間は一日に0.3時間しかなく、移住者たちはそんな劣悪環境を望んでここにやってきたわけですが、人がすむにはあまりに不適当な条件がそろいすぎていて、故郷から持ってきたジュースをゴクゴク、ポテチをボリボリひもじくやりながら、自分たちの愚かさを呪うくらいため息を漏らすようになっていました。

そこに現れたのがかの英雄、金髭のヨールこと、ヨ―ル=フィヨルドソンです。

彼はインターネットで取り寄せた魚を海に放流し、意気揚々と漁に出かけ、魚を残らず釣ってきて食べるという習慣を人々に教えました。また、小さなおもちゃの家をネットで人数分購入して分け合い、その中でのこぢんまりとした生活を提供しました。島への期待を裏切られてやさぐれていた牧師とも掛け合って、島の西端に教会を立て、

動的な神々の絵を白い空に飾り、人々の心を穏やかにしました。平和議会の設立にも力を注ぎ、アルシングを実現しました。

彼は、民主的な投票の末、正式に新しい島「ニューイーセンラント」の長、ヨール=フィヨルドソン村長となりました。

そして、村長就任式が万年氷の上で行われる日、あの恐ろしい火山、ヘララ山(正式名称ヘラヘラヘララクラクラクララ山)

が、ついに、噴火を始めたのです。大きな地震とともに島がゆれました。地面は裂け、真っ赤なマグマが噴出しました。雷鳴が轟き、黒い雲が渦を巻き、流れ出した溶岩は村の近くまで迫っていました。

そのとき、ヨールの叫びが人々の胸元に響きました。「私が、神の怒りを静めよう・・・!」

ヨールは「神の保冷剤」と呼ばれていた氷の塊を担ぎ、山頂へと向かいました。転げ落ちる土石流は、まるでヨールを避けるように一筋の裂け目を作って流れていました。ヨールは山頂へたどり着くと、氷の塊を高く掲げ、

こう叫びました。「神よ、村人たちを救いたまえ、千年続く穏やかな生活を与えたまえ。引き換えにこの氷とわが身とを捧げたてまつらん!」そういうとヨールは、氷の塊とともに火口に飛び込みました。回転する絶叫と雷鳴が一体となって村人たちの耳元に突き刺さりました。どかん!黒い煙の塊が火山から上がりました。その中から何本もの光線が差してきました。

空は次第に白い光に満ち、その下で火山は次第に落ち着きを取り戻し、なんと、火口からは冷たい水が湧き出しました。

その流れは川となり、まるで神々の涙のように、灰にまみれた山肌を洗い、焔に乾された大地を潤しながらあの温泉湖へと注いでいきました。温泉湖はちょうどいい温度になり、色も目が腐るような緑色からスコッチのような美しい黄金色へと変化しました。人々は温泉につかりながら、自ら犠牲となったヨールに黙祷を捧げました。

そこに現れたのが、ヨールの娘ブルダヒルダとその従者たちです。「わが父ヨールはそなたたちの命と引き換えに、神への捧げ物となった。わが父はこの島の神々と一体となり、今後もこの島に生活するものの運命を見守ることだろう。

然るに、この島の平安を維持するは、ほかにあらず、彼が血を引く一族のみぞ。この島を統治するは、我が一族にかされた使命なり。

人民はわが一族の神聖なる統治のため急ぎ氷の城をつくれ。さらば温かい温泉とIT産業の利益は平等に与えられん」

人々はこのよくわからない宣託に酔いしれてしまい、恍惚とした気分で労働に取り掛かった。巨大な凝灰岩レンガ造りの城、通称「凍れる城」はわずか一晩で、惑星建設(株)の発注により完成しました。城郭の中には、有事の時には(もちろん平時にも)一族が隠れることのできる深い森が作られ、城へと続く曲がりくねった道には火山の神を鎮めるため10メートルおきに生贄を架けた十字架が立てられました。そんなこんなでブルダヒルダ女王の約二ヶ月に渡る治世が始まりました。

それからの治世はひどいもので、約束していた温泉の分配は無く、住人は一族によって時々ばら撒かれる魚を釣ってひもじく暮らすより他ありませんでした。そこで反乱が起こりました。指導者はグルグルソン。一族は森に逃げ込みましたが、すぐに火を放たれ、瞬く間に全焼、炎の中で一族のほとんどが焼け死にました。ブルダヒルダ女王は息子を島に唯一自生することのできる「生命の樹」と共に宇宙カプセルで脱出させました。その後捕まり、三日間の間焼け落ちた城で陵辱された後、父親と同じく「神への捧げもの」として火山に放り込まれました。処刑の様子を見ていたグルグルソンは、目の前で飛び散る罪の味を何度も舐めまわし、そして不敵な笑みを浮かべました。その後彼は大統領となり、島の政治を牛耳るようになりました。

彼は株式コンサルタントによる寡頭政治を行い、一緒に戦ってきた貧しい住民たちからの搾取をより合理的な手法で始めました。

全員にコンピュータの購入を命じ、一日中第五惑星新興国国債の動向を監視するというものです。おかげで住民はみんなドライアイになり、角膜バンクは繁盛しました。住民の不満はまたも募り始めました。いつしか、教会は住民のほとんどが加入していた秘密結社のよりどころとなり、信仰と超自然的な制裁による政府転覆の夢想を思い思いの形で、

しわがれた教会の壁に馳せるようになっていました。そこに現れた希望の光は、黄金の髪をなびかせた美青年、シュテファン・ヨーグルソンでした。彼は嵐と共に島の東端の岬に降り立ち、その目には太陽の鋭さを宿した青、手には銀色に光る小さな杖を携え、颯爽と荒れた道を踏みしめていきました。驚いて飛び出してきたドライアイの住民たちを見ると彼は、手に持った銀色の杖を住民の目に向けて低く呪文を唱えました。すると、なんと住民はしろがねの涙を滝のように流し始めました。「奇跡だ!」人々は口々にそう囁きましたが、シュテファンは軽やかに、「命の共鳴だよ」と言いました。

彼は大統領官邸へと向かっていきました。住民はそろそろと彼の後を着いていきました。彼は門を守る憲兵たちを杖で軽くあしらうと、官邸の扉へ近づきました。彼は何かを察知したように、目を見開き、自動ドアを弾き飛ばして中へ駆け込みました。

「グルグルソンはどこだ!」杖によって従順になった大統領の取り巻きたちは、「大統領は今、プライベートルームで自社株の動向を・・・」と親切に答えたので、シュテファンは急いでホログラム地図で部屋の位置を確認し、もうダッシュしました。

彼は鍵穴に杖をあてがい、また低く呪文を唱えると、扉は彼をセンサーし、自動的に開きました。そこで彼が見たものは、彼の唯一の親族、捕虜として捕らえられていたジークヒルダ・ヨハンドッティルが、グルグルソンに善いようにされていたのです。

彼は一族の危機を本能的に感じ取っていました。そう、彼こそ、あのひどい女王ブルンヒルダの息子、シュテファン金髪王子だったのです。

「なぜだ!!」グルグルソンはあまりに突然の敵の襲来に、着るものも無く慌てふためきました。「一族の敵討ちだ!」

シュテファンは月並みなせりふと共に、杖をグルグルソンのエイナスに突き刺しました。悪の株式オヤジ・グルグルソンは、新しい快感と共に断頭台の露と消えました。こうして、再びヨールの一族が島の実権を握るようになったのです。

しかし、今度のシュテファン金髪王は、今までの統治者とは異なり、やさしく、おもいやりのあるわかきおうさまでした。

彼は、住民たちに自分が島を脱出した際に持ち出した「生命の樹」の苗を島中に植えさせました。そして、育った木の枝を

折らせ、一人ずつ持つようにいいました。「この木の枝は、もつ人の心の美しさに共鳴して、すばらしい力を発揮するんだよ」

若き王の言うとおり、この木の枝を持った純粋な子供たちは、瞬く間にこの便利なリモコンの使い手となりました。念じるだけで枝の先から模擬電波が発射され、あらゆる電子機器の操作が可能になりました。島のATMはすべて使用停止になりました。

あるもの3Dテレビのスイッチをつけたり消したりでき、またあるものは杖の先から美しいテクノ音楽を奏でることができました。

この杖は、持った人の脳波を敏感に感じ取り、おのおのの特性に合わせてさまざまな効能を発揮するという面白い性質を持った木だったのです。もちろん神秘主義を愛する住民はこの枝を「魔法の杖」として扱いました。こうしてこの島には魔法があふれるようになったのです。シュテファン王はジークヒルダ妃と民間からの皇太子マルセル=マルセーと共に静かに暮らしました・・・とさ。』

おわり

bottom of page